−−協会で聞いたのですが、今まで2万軒ぐらいシアトル近辺の家を見ておられるとか。
「鑑定した家がおそらく3千軒から4千軒。比較するためにその近所の家を少なくとも3軒から場合によっては12軒まで見ないといけないですから、それぐらい見ていてもおかしくないですね。まあ、20年もやってますから、数え切れないぐらい見ましたよ」
−−日本では個人が住宅を買うための不動産鑑定の仕事は無いようです。
「アメリカでも以前はそうでした。不動産の鑑定においても、きちんとした基準がなく、ライセンスもなかった時期がありました。これはお金を貸している銀行にとって問題でした。彼らは、何千万、何億という金額を貸しているものの、その不動産に本当にそれだけ価値があるかわからなかったからです。80年代半ばの米国貯蓄貸付組合(Savings & Loan Association)の救済問題の際に、多くの不動産の価値が高くつけられていて、詐欺もたくさんあったことがわかり、大きな問題になりました。それから、不動産鑑定の仕方に基準を持とうということになり、この協会の基準が使われるようになりました」
−−日本では購入者の収入をもとに借りられる金額が決まります。
「不良債権が生まれる原因はここですね。レイオフとかが当たり前の社会に対応できてないシステムのように思えます。アメリカでのローンの考え方は、3本柱です。家、借り手、そしてローンプログラム。借り手がマイクロソフトのビル・ゲイツならなんの問題もありません(笑)。まあ、彼なら現金で買うでしょうが。私が借り手なら、銀行にとってはその家がどんな状態かが重要になります。もし、家がすごくいい状態であれば、ローンプログラムは5%の頭金でもOKで、さらに5%の金利です(今現在30年ローンの平均は6%程度)。もし家がボロボロで手を入れないといけないような家だったら、頭金は20%である必要があります。こんな感じで変わってきます。もし借り手が自己破産などしていたら、金利が上がります。毎月支払いをきちんとする人なら、金利は低いままです」
−−住宅を鑑定する上で、地下はどの様に扱われますか。
「一般に、家の生活空間が大きくなればなるほど家の価値は上がります。これは当たり前ですよね。地下も生活空間であると考えますから、内壁がありカーペットやフローリングの床が入っていれば、地上のスペースの90%、大きな窓が地下にあったりすると100%に近い価値があると考えます。例えば、地上のスペースが1平方フィートあたり100ドルの価値があるとすると、地下は1平方フィートあたり90ドルから100ドルの間です。つまり1階や2階のスペースとほぼ同じぐらいに取り扱います」
これには、少し驚いた。地価が上がっているので、地下もある程度価値があるというのは理解できるが、地下がこれほどまで肯定的に見られているとは想像もしていなかった。なぜだろう。
「というのも、人々は地下も地上も分けて見ていません。これらはすべて普通に使える生活空間です。アメリカでは典型的には、地下に子供の寝室を用意します。上は大人の寝室です。子供は地下に寝室を持ち、遊び部屋を持ち、TV部屋を持ち、お客さんに見えるところではないですから、おもちゃとか好きなだけ散らかしていいんです。ですから大人は地下が価値を失っているとは見ないんです。もっとスペースがあると見ます」
−−新しく郊外で作られる家では地下が少ないと聞いたのですが。
「今まではそうでした。でも今はシアトル郊外でも平坦な土地が開発されきってしまって、残ったのは山の中腹など坂なので、地下付きが多いですね。また、以前は敷地が1万平方フィートでしたが、今では2千平方フィートほどしかありません。高く細い家を作らなければなりません。ですから、小さな敷地にもっと生活空間を押し込まないといけないので地下が重要になってきています」
新築としてのトレンドとしても地下が重要になってきているようだ。
どうも話を聞いていると、アメリカ人は住む側も銀行側も家を投資対象として見ているように感じられる。
−−一般のアメリカ人は家を投資対象として見ていますか?
「はい。ですが、まず人々には住むところが必要です。そして、借りるより買う方がいいと思っています。自分の城、アメリカンドリームという感じです。そこで、今は家の価値がどんどん上がっているので、少し無理をしてでも、あるいは自分の予算以上の家でも買おうというプレッシャーがあります。5、6年で家の値段が倍になるというのがアメリカの大都市でのここ数年の傾向ですから。あるいは、高い家に手が届かないならボロボロの安い家を買って、自分でいろいろと直して住んだり、高く売ったりしている人たちも多いですね。コンクリートの倉庫になっているような地下を生活空間にするためにリフォームし、内壁やカーペットなどを入れたりします。先ほど話をした地下の評価価格の例でいくと、このようなコンクリートの倉庫になっている地下は25ドル程度しか評価されないんです。キッチンや洗面所に比べて、地下のリフォームはそんなにお金がかかりませんから、いかにいい投資か想像できると思います」
家の購入においても投資やリスクマネジメントを考えているアメリカ人。家が100年以上持つので、電気や水回り、内装をリフォームすることで、いつまでも新築に近い感じで住むことができ、また家の価値を上げることができると考えているようだ。その中で倉庫でしかなかった地下を生活空間にするためのリフォームの作業は、最も投資効果の高いものだという。2万軒を見てきた上級不動産鑑定士の意見だけにその言葉の重さを感じる。
輸入住宅や新しい工法で日本の家も長く使えるようになって来ている。家を作るとき、リフォームをする際にも、どこにピンポイントで投資を行うかを考えるべき時に来ているのかも知れない。